厳冬期・横岳 2829m 〜赤岳 2899m 縦走
赤岳鉱泉 → 大同心稜 → 横岳 → 赤岳 → 行者小屋
→ 赤岳鉱泉

2010.2.13~2.14
写真集

Day 1: アイゼン講習会
Day 2: 大同心稜〜横岳〜赤岳

ミキヤツ登山教室の「大同心稜〜横岳・赤岳縦走」というコースに参加した。
大同心稜は、バリエーションルート(登山道でないルート)である。赤岳鉱泉の小屋から、雪と氷のミックスした岩稜をよじ登り、稜線へ躍り出る。そして、横岳から主峰・赤岳へと縦走するディープなコースだ。

冬の八ヶ岳は晴天に恵まれることが多い。また、山小屋が通年営業しているエリアは八ヶ岳くらいしかない。そのため、本格的に冬山を目指す者は、八ヶ岳からスタートする。
八ヶ岳の主峰・赤岳は、冬山の入門コースといわれる。しかし実際には、赤岳で凍傷に罹って指を切断する人もいるし、滑落して毎年何人かは命を落としている。

去年の冬、赤岳登頂コースに参加して楽しかったし、夏にスイスのブライトホルン(4,165m)に登ったときは楽勝だった。それで、調子に乗って、今年の夏はモンブランに登ることに決めた。今回は、そのためのトレーニングという位置付けだった。(実は、モンブランの氷河に覆われている山頂付近は、なだらかで難しくなく、むしろそこに到達するまでの岩登りの技術が必要らしい。)
しかし、そんな根拠のない自信は、見事に打ち砕かれることになる。

冬山登山に必要なものは何だろうか?
①技術
②体力
③精神力
といったところだろうか。
今回自分に一番足りなかったのは、実は、③だった。

ガイド登山といっても、ガイドに引っ張り上げてもらうわけではない。自分の手と足で登るのだ。
技術に関しては、ガイドがサポートしてくれる。私はかなり運動神経が悪い。それでも、大同心稜を(ガイドと一緒に)登るのに必要な技術は、ちょっと練習すれば誰でも身につけることができる(そうでなければ、ガイドは連れて行ってくれない)。 また、体力は、トレーニングすれば誰にでも身につくものだ。実際、ランニングを始めたお陰で、体力的には余裕があった。
でも、精神力を鍛えるのは難しい。ここでいう精神力とは、根性のことではない。極限状態でいかに冷静に、客観的でいられるかということだ。
冬山では、誰もがパニック状態に陥りそうになる。それでも、笑っていられるかということだ。危機管理能力といってもいいかもしれない。

そして、山岳ガイドという職業は、ただ山が好きなだけでなく、肉体的にも精神的にもタフじゃないと勤まらない、とつくづく思った。
人の命を預かる職業は、みんなそうなのかもしれないが。

今回、技術的にも得るものは沢山あったけれども、自分の弱さを改めて思い知ることができたのが、最大の収穫だったかもしれない。
もっと強い人間になりたい。

Day 1: アイゼン講習会

1月10日にハーフマラソンを走ってから、4週連続で週末に晴天が続いた。天狗岳あたりに登って装備の確認をしておこうと思っていたのだが、結局、一度も冬山に行けずに本番当日を迎えてしまった。
それで、これが今シーズン初の冬山となった。

前日の夜、なぜか咳が止まらなくなり、よく眠れなかった。
体調不良のまま、一抹の不安を抱えて出発する。
新宿から始発(7時発)のスーパーあずさに乗り込む。小淵沢駅9時集合。そこで他の客と落ち合って、車で美濃戸口へ。チェーンを巻いて、赤岳山荘まで入る。そこから、雪道を2時間弱歩くと、赤岳鉱泉に着く。
ここには、アイスキャンディーと呼ばれる巨大な氷柱がある。今月末に、アイス・クライミングの大会が行われるらしい。

小屋でラーメンを食べ、一服してから講習開始。
講習会では、氷の斜面を使って、アイゼンやピッケルの使い方を練習する。
アイス・クライミングに興じる人たちの威勢の良い掛け声と、たまに氷の塊が落下する轟音が響く。
やがて、雪が降ってきた。あまり動かないので、身体が冷え切った。
夕食は、豚の角煮と野菜の鍋だった。旨い。
下界では、今日からオリンピックが始まったようだ。

*****

講習会で行った練習の一つに、アイゼンの前爪を使ったフロント・ポインティングという歩き方がある。爪先立ちである。
去年、赤岳コースに参加したときには、オールシーズン用の革の登山靴を履いていた。それだと、靴底が曲がってしまい爪先に力が入らない。
そこでその後、ScarpaのCumbreという冬山用の登山靴を購入した。某登山用品店でその靴を買うときに、持っていたSimondの12本爪アイゼンを持って行ったところ、「相性はバッチリ」と言われた。確かに、アイゼンが動くことはないので、これまで問題を感じることはなかった。
ところが、私の足はかなり規格外で、大きいだけでなく横幅が異常に広いため、足にフィットする靴がなかなか見付からない。私の靴の幅の方が、Simondのアイゼンが想定する横幅よりも広いため、前爪が前方に飛び出る格好になる。
そのため、フロント・ポインティングをすると、アイゼンがしなって靴との間に隙間ができてしまうのだ。
結局、ガイドさんお薦めの、Grivelのアイゼンを借りることになった。

そういうわけで、登山用品店で言われることはあまりアテにならない。
私の持っているピッケルは、72センチもある長くて重いシロモノである。岩場では邪魔になるし、重くて余計な負担になる。
これを買ったのは、もう10年も前のことだ。冬山の「ふ」の字も知らない状態で、単独で北八ツに行った。冬山といえばピッケルとアイゼンだ、と思って、登山用品屋に行って薦められるままに購入した。「初心者には長い方が使いやすい」というのが店の人のアドバイスだった。

冬山の装備はお金がかかる。装備は単独で使うのではなく、組み合わせに意味がある。
そのため、手持ちの物に一つ一つ買い足していくと、結果的に余計にお金がかかることになる。
冬山をやろうと思い立ったら、装備をレンタルして、まず講習会に参加するのがいいと思う。そして、可能ならば、装備は一気に買い揃える方がいい。

Day 2: 大同心稜〜横岳〜赤岳

夜中の1時頃に目が覚め、その後悶々として1時間以上眠れなかった。
が、5時半にガイドに叩き起こされたときは、スッキリしていた。体調は復活したようだ。
朝食の弁当を急いで胃に詰め込み、出発の準備をする。

冬山はとにかく手数が多い。
今回のウェアは、上は、クロロファイバー80%・ポリエステル20%の下着+厚手の山シャツ+このたび購入したNorth Faceの冬山用ヤッケ。下は、パンツ+タイツ+フリースのズボン+ゴアの雨具(夏用)の下、である。かなりのあり合わせ感が漂っている。
それに、靴下、手袋、目出し帽(銀行強盗みたいなヤツ)、ヘルメット、サングラス、ハーネスを着ける。手袋一つにしても、ウェアと互い違いにして、手首が露出しないように気を付けなければならない。
靴紐を結ぶのも一苦労だ。それからスパッツを着け、小屋の外でアイゼンを装着する。
さあ、いよいよ出発だ。空は雲一つなく晴れ渡っている!

我々のグループは、ガイドさん2人に客が4人である。小屋の裏から、急斜面の樹林帯をガシガシ登っていく。かなり速いペースだ。
大同心の基部に着く。これは、誰でも見られる光景ではない。阿弥陀岳が輝いている。気温は氷点下16度だった。

ここで、ガイド1人+客2人という具合にザイルを結ぶ。
いよいよ岩に取り付く。先行するガイドの久野さんは、いきなり雪の付いた巨大な岩を攀じ登った。げげ。早速、練習したフロント・ポインティングを使うことになる。岩場では滑りそうだが、意外に安定する。
そこから先、稜線に出るまでは、とにかく無我夢中だった。どこをどう歩いたのか、ほとんど覚えていない。
恐怖心で、なかなか足が前に出ない。いくら上体を起こせと言われても、岩にへばり付いてしまう。そうすると、爪先に力が入らず危険である。
実際、30センチほど滑落した。フロント・ポインティングで急斜面をトラバースしているとき、足場の雪面が崩れて左足が滑った。
久野さんの指示に従って、まずピッケルを雪面に刺し、左足を蹴り込んで左足の足場を安定させてから、右足の爪先に力をいれて上体を持ち上げた。セーフ。
足元がよく見えない岩場をフロント・ポインティングで下降するのが一番怖かった。テンパリまくりだ。
4人の中で、私がダントツでヘタクソだった、と思う。でも、そのときはそんなことを考えている余裕さえなかった。

稜線に躍り出ると、一気に展望が開ける。ちょっと歩けば横岳の頂上だ。
風はなく、暖かい。
今日は、ベストコンディションに近かったのだ。これが吹雪だったら、相当萎えていたと思う。

横岳〜赤岳の縦走路は、一般登山道なので鎖や梯子が設置されている。鎖は雪面に埋まっていて、アイゼンを引っかけそうになる。アイゼンを着けたまま梯子を下るのはちょっと怖いが、前爪4本で段を踏めば大丈夫。岩場よりはだいぶマシだ。やっと、心にゆとりが出てきたぞ。
冷静さを取り戻してみると、右足の踵が擦れて、一歩踏み出すごとに痛みが走ることに気がついた。そのため、右足はほとんどフロント・ポインティングで登り続ける。ふくらはぎが疲れる。

赤岳天望荘に到着。小屋の中でしばし休憩する。小屋のご好意で、暖かいコーヒーを頂く。トイレに行ってから、また極寒の世界へと舞い戻る。
凄まじい強風。猛烈な風が、横から顔を叩きつける。痛い。サングラスをしていても、目を開けていられない。下手をすると顔が凍傷にやられる。
赤岳は八ヶ岳の最高峰だけあって、小屋から赤岳山頂への登りは結構な距離がある。でも、ここは去年も歩いたところだ。これから先、もうさっきのようなヤバイところはない。あとは体力勝負だ。
ガイドさんは、容赦ないペースでガンガン登っていくが、私は段々元気になってきた。しかし、ザイルを繋いでいたもう一人の人は、ちょっと辛そうだ。今まで私が足手纏いだったためにその人を消耗させてしまい、申し訳なかった。

赤岳山頂では、写真を撮って早々に退散する。
あとは、雪の急斜面をひたすら下るのみ。行者小屋まで下れば、もう安心だ。ほっと一息ついて、ペットボトルのスポーツ飲料を飲もうとしたら、シャーベット状になっていた。

アイゼンを外して樹林帯の中を滑るように歩き、赤岳鉱泉に生還した。
牛丼を食べ、荷物を整理する。靴下を脱いだら、右足の踵の皮が5平方センチくらいベロンとめくれていた。
踵をかばいながら雪道を歩いて、赤岳山荘へ戻る。そして、車で小淵沢駅へ。
私は、スパティオ小淵沢の「延命の湯」まで車で送ってもらい、温泉に浸かっていった。踵を湯につけると激痛が走るが、少しガマンすれば大丈夫だ。
こうして、6日後に控えた2度目のハーフマラソンは限りなくDNSに近づいた。でも、この日程は動かせなかったので、これで良かったのだ。


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